スペース･コロニーを地球連邦軍の軍事拠点（主に南米ジャブロー）へ衝突させるブリティッシュ作戦遂行後（ただし降着地点が大きくはずれ、結果目的軍事拠点壊滅は失敗）、ジオン公国軍はあらたに地球攻撃軍を編成。巡洋艦ムサイに艦外搭載された大型耐熱降下モジュールHLVは、地上制圧用のモビルスーツ ザクに加え、戦闘車両マゼラ･アタック、局地戦闘機ドップ等を搭載して衛星軌道から降下作戦を実施した。国力にこそ劣るものの極めて緻密に計算された制圧作戦である。降下後に拠点構築を図るためにHLVはザクによる解体で簡易軍事施設に再構築できるように予め設計されていた。対する地球連邦軍の主力攻撃部隊は航空兵力と地上戦闘車両部隊のみで、機動力に勝る装甲機動兵器モビルスーツの前に満足な反攻を行うことは出来なかった。
順調に進撃を続けるジオン地上部隊にも見えたが、地球連邦軍もモビルスーツ開発に遅れながらも乗り出しており、やはりルウム戦役、一週間戦争での装甲機動兵器の威力を目の当たりにした上は、運用は無視できない状態に至っていた。戦争とは諜報戦でもある。製造業界隈に根深く網を広げていた情報筋は、連邦軍が反攻作戦にむけて開発を進めているモビルスーツの情報については大まかな流れを掴んでいた。ジオン公国軍が地上制圧の進捗に苦慮し始める頃、こうした情報を元に検討開発が行われたのが、06型ザクに続く局地戦闘機開発計画である。つまり汎用性を重視して設計されたザクを元に、対モビルスーツ戦を想定した格闘戦に特化したモビルスーツである。もはや主力メーカーの座を手に入れたジオニック社からはYMS-07、ツィマット社からは前作EMS-04ヅダに続いて機動性重視の高機動モビルスーツYMS-08Aがトライアルに参加した。設計案の提出は当然のプロセスであったが、ジオンに不慣れな地上環境での実用試験が充分でなければ、実用機種として判断することは難しかった。双方共に試作開発をただちに行うよう指示が下った。この点については官僚主義の連邦軍に対してジオン軍の順応性には長じたものがあったと言ってよい。
YMS-07の試作1号機は、ザクに比べて装甲強度の見直しと推進エンジンの強化が図られたものの、予定していた固定武装の完成に遅れが生じ、新型機としては特徴に薄いものとして完成したが、続く2号機の完成時には左腕（指）に内装する75mm 5連装曲射式マシンガン、右腕には電磁高熱伝導式ヒート・ロッドが装備された他、防御用のシールドは携行式のものが採用された。またヒート･ホークの発展型とも言えるヒート剣（ヒート･ソード）もこの機体の運用を示す武装となっている。トライアルの時点では後の生産型Bシリーズのスペックと変わらない状態で臨んでいる。またモノアイのターレットは全周回型が採用されているのがこの試作型の特徴。片や短距離の飛行移動を特徴に盛り込んだツィマットのYMS-08Aは、軽量にまとめられたものの、予定していたメインエンジンの出力に満足な数値が得られないまま研究母機として初回納入分の５機の製造にとどまり、採用の座をまたしてもジオニックのYMS-07へ譲っている（しかし同社の主眼は、続く要求性能に基づく画期的重モビルスーツ09型へと移行していたといわれる）。推進エンジンが整っていれば、この08型は07同様採用受注される予定も立てられていた。
ジオン初の陸戦型局地戦用モビルスーツはMS-07グフとして正式採用となり、開発拠点キャリフォルニアの接収基地で直ちに生産ラインに乗せられた。それまでの陸戦用MS-06J型及び熱帯戦対応型MS-06D型の製造ラインはこの07型用に転換されている。
ザクから大幅に構造設計が変わった07型ではあったが、初期生産型07A型は専用固定武装の生産に遅延をきたし、通常型のマニピュレーターを装備したものとして前線に配備された。宇宙攻撃軍ドズル・ザビ中将の命を受け、追撃任務に当たったランバ･ラル大尉はYMS-07B型仕様（通算3号機）の機体を受領し、ホワイトベース隊のモビルスーツ群と白兵戦を行った。この機体は増加試作型ではあったが、細部に至るまで調整が行き届いた特別機でもあった。