魂の骨格 [魂の骨格] 4/7受注締め切り!魂SPEC ブラックサレナ -FIERCE BATTLE- 発売記念 アニメ監督・演出家 佐藤竜雄
2014-03-28 19:00 更新
「魂SPEC ブラックサレナ」の5年ぶりの商品化を記念して、その出展作品である『機動戦艦ナデシコ -The prince of darkness-』(1998年劇場公開作品)を手掛けた佐藤竜雄監督にインタビュー。
「魂SPEC ブラックサレナ -FIERCE BATTLE-」は、ノーマル版、クリアー版を経て、今回は豪華彩色版の3バージョン目。佐藤監督には、この最新版ブラックサレナと共に、作品について語って頂きました。
■立体で見ると、中にエステバリスが隠されているのがバレバレ!
――「魂SPEC ブラックサレナ -FIERCE BATTLE-」を目の前にした感想はいかがですか?
ノーマル版を見た時にも思いましたが、「よく作ったよな」と言うのが第一の感想で(笑)。劇場版公開からすでに何年も経っていますからネタバレしても別に構わないと思いますが、ラストの戦いで、ブラックサレナが鎧をパージ(分離)して、中からエステバリスが姿を現すシーン。アニメはやはり“絵”なので、けっこう足に下駄を履かせているところを含め、あやふやにしているところもあって。実際に立体化すると、各装甲はどうなるんだろうと思っていたのですが、“意外”と言ったら失礼かもしれないですが、かなりカッコいい感じに再現されていたので、すごいなと。
――監督から見て、「魂SPEC ブラックサレナ」の見どころは?
ポイントはいわゆる両腕の砲身部分ですよね。当時はラストのネタバレを避けるために(ブラックサレナの中身がエステバリスとわからないように)、劇中で両腕はエステバリスとは違う暗い色に塗っているんです。ただ、商品化の際にはもうネタバレしているので、当然、エステバリスのカラーリングになっているところがポイント高いですよね。よく見るとエステバリスであることが、わかってしまうんだなと。影で色を落としたりと、かなり苦心したりしていたのですが、やはり(立体物を)目の当たりにするとバレバレ(笑)。
今回のバージョンはエステバリスの色がまた変わっているんですよね?
――ノーマル版は外装をパージした後のエステバリスらしいカラーリング、クリア版では鎧に覆われている時の紫系の暗いトーンで、今回はその中間のイメージです。ちなみに外装のブラックサレナや高機動ユニットは、豪華彩色バージョンとなっています。
表面処理が以前のバージョンと変わっているんですか?ちょっと感じが違いますよね。
――今回のバージョンでは、ブラックサレナの激戦の雰囲気を表現しています。元々、装甲のダメージ表現部分は設定画を参考に造形されているのですが、今回は傷のところに銀色で塗装を加えています。
たしかに劇中では、どんどんダメージが増えていましたからね。制作時、ダメージの設定がないとダメだろうと言う話になり、設定画を作ってもらいました。作画は大変でしたけど(笑)。
――それと、赤い部分はメタリックを入れてゴージャス感を出しています。設定の色指定とは違いますが……。
立体化する際ならではの、そういう演出はあってしかるべきだと思いますよ。
――では、実際に商品を手にして、再現したいポーズなどはありますか?
構造上、あまり可動するメカではないので、基本的には直立させてしまいますが……前傾姿勢の飛行ポーズですね。劇中、陸戦で地に足を着けて戦うのは本当に最後の最後だけなので、基本はやはり飛行ポーズですね。台座があるので、イイ感じに決められるので。
以前のバージョンの商品サンプルを頂いた時も、やはり飛行ポーズを再現しました。
――台座があればこその再現ポーズですね。「魂SPEC ブラックサレナ -FIERCE BATTLE-」が発売になった時にも、ぜひ色々ディスプレイを試してみてください。
楽しみですね。
■ブラックサレナのデザインコンセプトはやっぱり「鎧」
――ブラックサレナの、劇中でのお気に入りのシーンについてお聞かせください。
高機動ユニットをパージしてからコロニー内を飛び回るところですね。構図はシンプルですが、いかにもブラックサレナらしい雰囲気の絵作りになっていると思います。
――劇中前半の、リョーコ機に追われているシーンですね。
その辺りの原画は黄瀬和哉さん(※現Production I.G取締役/『攻殻機動隊 ARISE』総監督)ですね。リョーコ機が主観となる、広角なカメラワークが特徴的でした。砲身が歪んで見えて、その先にブラックサレナがいるんです。
――このシーンは、以前のリマスター化の際に「細かいディテールも観て欲しい」と仰っていましたね。
ええ。(ブラックサレナの機体色の)黒もただの黒ではなく、宇宙空間でもしっかりと見える黒のはずでしたが、当初のマスタリング技術だと、再現度に限界がありました。それをHDリマスター化した時に、あらためて調整したんです。メカが得意なアニメーターの方々が作画をすごく頑張ってくれたんですけど、当時、彼らから「映画館でも見えづらい!」みたいな声もあったので。今はBlu-ray版で完璧に見えます!
――ブラックサレナは “黒”のミステリアスな感じがかっこいいです。
もし、テレビでの登場だとしたら実現が難しかったでしょうね。黒は見えなからダメ、みたいな。ただTVシリーズも含めて、メカは比較的に自由でした。だからエステバリスはピンクなんです(笑)。
――では、ブラックサレナのデザインも、比較的に自由に?
コンセプトとしてはやっぱり「鎧だぜ!」と。肩の鎧がアクセントで、ほんとにタックルしたら強そう、という。当時、肩のいかついメカがなかったからですね。装甲重視で、驚異的な進化を遂げたメカ……「それ退化なのでは?」と言うところで、イチかバチかで戦うギリギリ感を出したかったんです。
――ギリギリ感の戦いというと、ラストのブラックサレナと夜天光の一騎打ちシーンですね。
あっという間に終わる一撃必殺みたいな戦いになることは、最初から決まっていました。それもあって、ブラックサレナは戦闘シーンそのものより、登場やパージなどの描写を濃いめにしています。
―― 一騎打ちで装甲をパージするシーンも印象的でした。
最初の高機動ユニットをパージしたこと、最終的な戦いでの装甲のパージ、その都度その都度にアキトの想いがこもっているんです。この辺りはドラマチックに演出できたと思います。
――アキトと戦った北辰の「鎧をまとおうとも、心の弱さは守れない」というセリフもありました。
最終的には鎧で勝っているんですけどね(笑)。
――もし現在、ブラックサレナを改めて演出するとしたら、いかがですか?
せっかく脚があるので、脚を有効に活かしたいですね。ただ、当時、メカ作監の前田明寿さんにも言われましたが、「足首関節がないから、これは歩かせませんよ」と。それもあって、最後の戦闘は一瞬で決まったところもあるので(笑)。
■無我夢中で作り続けて、その集大成がこの劇場版ナデシコ
――劇場版『機動戦艦ナデシコ -The prince of darkness-』についてお聞かせください。
当時、僕はメカ作品が初めてだったので、メカの経験がない分、セオリーもなくて。その辺りも含めて無我夢中で作り続けて、その集大成がこの劇場版ナデシコ。そういう意味でも、すごい印象深い作品です。気が付いたら周りから評価して頂けたので、何とかなるもんだなと(笑)。
――では、その後、佐藤監督が手掛けたメカものへの影響も?
そうですね。量産機を乗りこなす中で、パイロットがどういう情念……と言ってしまうと変ですけど、“想い”を抱くのか、その辺りにドラマが生まれるんです。その話の流れでメカが活躍していくとすれば、ある意味メカも芝居をしてくれるんだなと。最近の若い世代がロボットに関心が薄いこともあってか、本格的なロボット作品からは少し遠ざかっていますが、“モーパイ”(※『モーレツ宇宙海賊』)におけるメカ運用は、ナデシコの流れを汲んでいるかなと思います。『輪廻のラグランジェ』もありましたけど、路線的には少し違ったので。
――昨年2013年12月のリバイバル上映も話題でしたが、改めて観ていかがでしたか?
5.1チャンネルを劇場の大きいスクリーンで観ると、やはり広がりがありましたよね。絵もキレイですし。おそらくHDリマスター化して大スクリーンに流したのは、これが初めてじゃないですか? セルアニメとして最後期の作品としても印象深いです。
――1998年作品でしたね。手描きでこんなにメカが動くのは、当時としても驚異的でした。
あの当時、アニメーターは絵に対して本当に執着がありましたよね。やはり描かないと表現できないですから。今はテクスチャーなりで代用ができますが、手描きのセルアニメならではの質感は独特ですよね。これは今のデジタルではできないところで、失われた技術というか(笑)
――セルとデジタルでは動きにも違いがありますよね。
3DCGの軌道を計算した動きではない、人間の感覚の曲線、運動曲線と言うのか、セルの動きは独特です。確かに手で作業するのは大変ですが、逆に手で描ければ何でもできたんですよね。
CGになって、カメラ位置を自由に回せるようになったのは大きいかもしれない。作画で、動きながら(カメラ位置を)回すようなことは、普通の人にはなかなかできないことで。板野一郎さん(※アニメーター。代表作『機動戦士ガンダム』、『超時空要塞マクロス』/独特な戦闘シーンは“板野サーカス”と称される)みたいな独特の感性を持たれたアニメーターさんは、それが天性でできてたんですけど。
――逆に現在のデジタルならではの難しさはありますか?
速いもの、軽快なものは3DCGでかなりのレベルで再現できるのですが、無骨なもの、重たいものの表現は難しいですね。ブラックサレナなどは今、デジタルで表現したら、セルに比べると軽くなってしまう気がするんです。どうすればいいのか……と言うのは正直ありますよ。
――先ほどのお話にあった、セル画独特の動きもデジタルでは難しいですよね。
CGでも手描きに近付けるにはどうすればよいのか、日々試しています。今のデジタル技術であれば再現可能かもしれませんが、やはりスケジュールやマシンパワーの問題もあります。それにソフトウェア。結局、人の能力を超えたところで制限が明確に出てきてしまう。
――その辺りが今の課題なんですね。
デジタルは速く動くので、「必ず動かさないといけない」と言うような強迫観念があってか、どうしても動かし過ぎてしまうんですよね。上手く、セルアニメ時代の“止めてよし”みたいなところができればな、と。そこからさらに、セルアニメではできなかったことをやろうと試行錯誤しています。なかなか“コレぞ!”と言う表現には辿りつけていませんが……。
何か新しいことができれば、アニメーション世界が変わるかもしれないですね。
――ありがとうございました。
【3月某日 XEBECにて】
佐藤竜雄監督直筆 “太鼓判” 頂きました!
佐藤監督に直筆(自前筆ペン!)で「魂SPEC ブラックサレナ –FIERCE BATTLE-」に監督お墨付きとも言える“太鼓判”イラストを頂きました。この“太鼓判”は商品パッケージに入ります!
佐藤竜雄
1964年(昭和39年)7月7日生まれ。神奈川県大磯町出身。アニメ監督・演出家。代表作は『機動戦艦ナデシコ』(監督・脚本・演出・絵コンテ)、『学園戦記ムリョウ』(原作・監督・シリーズ構成・脚本)、『輪廻のラグランジェ』(総監督)、『モーレツ宇宙海賊』(監督・シリーズ構成・脚本)ほか多数。最新作は2014年2月より公開の『モーレツ宇宙海賊 ABYSS OF HYPERSPACE -亜空の深淵-』(監督・脚本)。
(C)ジーベック/1998 NADESICO製作委員会