魂の骨格 「ROBOT魂 G-セルフ」シリーズ商品化記念 『ガンダム Gのレコンギスタ』 安田朗 スペシャルインタビュー

「ROBOT魂 G-セルフ」シリーズ商品化記念『ガンダム Gのレコンギスタ』メカニカルデザイン 安田朗 スペシャルインタビュー

富野由悠季監督によるガンダム最新作『ガンダム Gのレコンギスタ』より、好評発売中の「ROBOT魂 <SIDE MS> G-セルフ」、そして魂ウェブ商店での受注販売となる「同 G-セルフ(リフレクターパック)」。これらの商品化を記念して、メカニカルデザイン担当・安田朗氏へのインタビューが実現した。

■“ガンダムに戻す” G-セルフのデザイン成立過程

 脱ガンダムに囚われすぎるのも無意味だと思いました

――さっそくですが、「G-セルフ」のデザインについてお聞かせください。

安田:『リング・オブ・ガンダム』 ※注 の時、ぼんやりとですが“逆角”と“大きめの目”のG-セルフ的なデザインを思い描いていました。その作品では最終的にRX-78的なデザインになったので、当初のイメージを形にできずちょっと悔しかったんです。実は『コードギアス 亡国のアキト』のアレクサンダには、その時のデザインが部分的に反映されています。その後、『G-レコ』に参加できることになり、当時のデザインイメージに加え、“フォトンバッテリー”の設定を受けて“光ガンダム”にしなければと思ったんです。

※注:『リング・オブ・ガンダム』……ガンダム30周年を記念した、2009年イベント公開のフルCG作品。

――装甲は“インビジブル・チタニウム”という新素材という設定でしたね。

安田:これは昔のSF小説『宇宙のスカイラーク』(E.E.スミス著)に出てくる透明の金属のイメージもありました。永野護さんの透明装甲もあってかぶるなとは思ったんですが、やりたかったんです。

――G-セルフは既存のガンダムと異なる独特なフォルム、デザインですよね。

安田:はい。ただ、富野監督が『G-レコ』で掲げていた“脱ガンダム”に囚われすぎるのも無意味だと思いました。何より「ガンダムに戻さなきゃいけない」と言う気分もあったんです。やはり“レコンギスタ” ※注 と言う富野監督の言葉が助けになりました。“レコンギスタ”であれば、「今までやったことを全部やってもいいじゃないですか」と言えるわけですから。ただ、おそらく富野監督はそのまま戻すのは嫌がるはずなので、何かひねった戻し方をしなければいけないと。

※注:レコンギスタ……「回帰」などを意味するスペイン語「レコンキスタ」からの造語。

――具体的には、どのような戻し方でG-セルフのデザインになったのでしょうか?

安田:“Gパーツ” ※注 を意識しました。ファーストガンダムでガルマが「敵のモビルスーツは戦闘機を中心に自由にタイプを変えられる多用途モビルスーツらしい」とシャアに説明するシーンがあって。「今まで私の見ていたのは、敵のモビルスーツの一部分の性能という訳なのか?」というようなセリフでシャアが驚くんです。

※注:“Gパーツ”……ガンダムの強化パーツとして開発された「Gアーマー」の構成パーツ群。

――第7話「コアファイター脱出せよ」のラストシーンですね。

安田:はい。実際はそこまですごいということはなかったんですが、でも「あれをやらなければ!」という思いがありました。

――それが各種パックに繋がるんですね。

安田:毎回、仕様が変わるのは、富野作品的には新しいですし。監督はそういうのやらないですからね。

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■アニメの中の「G-セルフ」と、富野監督

 アニメーターさんが描いてくれたG-セルフは僕より上手い!

――劇中で動くG-セルフをご覧になった時の感想はいかがでしたか?

安田:とにかく、アニメーターさんが描いてくれたG-セルフは僕より上手い!

――中谷誠一さん、桑名郁朗さんなど、メカ作監陣も豪華メンバーでしたね。

安田:桑名さんの解釈もすごいですし、とにかくみんな上手くて「こうだったのか!」と思わされるところもありました。

――デザイン時、アニメーターさんの描きやすさも考えたのでしょうか?

安田:全然なかったです。ただ、『OVERMAN キングゲイナー』の時、吉田健一さん(キャラクターデザイン・作画チーフ)は線を減らしたことをとても後悔していたらしいんです。お会いするたびに「線を減らしすぎて申し訳なかった」と言っていたので、おそらく今回は増やしてくれたんだと思います。

――制作時の富野総監督とのエピソードで、印象深かった事はありますか?

安田:色々……と言うか、怒られたことくらいで。富野監督がプロデューサーへ僕のことについてのメールを出していたんですよ。それは、僕を怒りすぎたことに関するメールだったんですけど。プロデューサーから「安田さん、それを読んでよく考えてください」と言われてしまいました。つまり、怒ったことを、ずいぶんと気にされていたみたいで、そのへんが人間っぽいですよね。

――ポジティブなエピソードもあれば、ぜひ!

安田:あんまりハッピーな思い出はないんですけど(笑)、あるとしたら、パーフェクトパックが劇中に登場したことですね。「お前(のデザイン)が間に合えば出す」と富野監督がおっしゃって。パーフェクトパックは最終回では使わない可能性もあったようですが、結局、最後まで使ってもらえました。

――使わない可能性ということについては、何か理由があったのでしょうか?

安田:パーフェクトパックはあまりに強すぎるからと言うのが理由で、当初は大気圏パックを使うという話でした。その時、僕は「“ランドセル”はどうですか?」と提案しました。

――RX-78のようなランドセル(バックパック)ですか?

安田:そうです。ランドセル+バズーカだったらファーストガンダムの最終回みたいですからね。

――それも別の機会でデザイン化、立体化されると楽しそうですね。

安田:いいですね。それはぜひやってみたいです!

■ROBOT魂 G-セルフ

 この箇所は「クリアなんだ!」と強く言いたかったので、本当に嬉しかった

――「ROBOT魂 <SIDE MS> G-セルフが」ついに発売となりました。実物の感想はいかがですか?

安田:写真で見るよりもスタイリッシュで良いですね。角も尖っていますし。サイズこそ小さいですが、思った以上に情報量があってテンションが上がります。

――安田さん的な見どころはありますか?

安田:胸のカバーがクリアパーツになっていて嬉しいです。設定上、黄色パーツの上にクリアのカバーがあるんですが、劇中でもわかりづらくて。

――胸のクリアパーツはROBOT魂ならではの“こだわり”箇所で、試行錯誤で3回ほど作り直しています。

安田:それはありがとうございます。この箇所は「クリアなんだ!」と強く言いたかったので、本当に嬉しかったです。あ、この肩のパーティングラインも設定画に合わせてもらっているんですね。

――パーツ分割含めて、なるべく安田さんの設定画を再現させてもらいました。

安田:肩のデザインは“菱形”なんですが、形状的に対角線上がすでに斜め感があるんですよ。そのため、あまり角度を付けてしまうと斜めと斜めが重なってしまうので、なるべく肩(の天面)はフラットな感じになってほしかったんです。このあたりのバランスもよいですね。

――可動にもこだわりがあって、太腿のスライドや、腰アーマーの連動可動、腿をあげたときに疑似的にお尻があるような感じに見えるなどを盛り込んでいます。

安田:なるほど。まだそこまでポーズを取らせていなかったのですが、これはすごいですね。

――では、取らせてみたいポーズなどはありますか?

安田:それほどポージングにこだわりはないですが、リラックス気味の立ちポーズが好きですね。あと、G-セルフはオープニングのポーズが良かったですよ。あれは「富野監督がまた発明した!」と思いました。ダイターン3のオープニングのガニ股ポーズとか、富野監督は“よく見るカッコいいポーズ”とは異なる印象的なポージングをよく生み出しますね。

ROBOT魂 G-セルフ03   ROBOT魂 G-セルフ04
■リフレクターパック商品化

 構造に悩みましたが、富野監督に「そんなのどうでもいい!」と言われた(笑)

――「ROBOT魂 <SIDE MS> G-セルフ(リフレクターパック)」が現在、魂ウェブ商店で受注中となっております。こちらについてはいかがでしょうか?

安田:これはもう、「出すんだ!?」と言う一言に尽きますよね、本当に。リフレクターパックは劇中でどう動くのか不安でしたが、実際にアニメを観たらカッコよかったです。アニメーターさんの力や富野監督の力に驚かされました。

――リフレクターパックは劇中のG-セルフにおける最初のカラーチェンジ演出もありましたが、色が変わるシーンはとてもカッコよかったですよね。

安田:それは僕も思いました。ビーム・ライフルを撃つシーンの顔もカッコよくて、あれを観たときに(リフレクターパックは)いけるような気がしました。

――当初の設定では、どんなイメージで描かれていたのでしょうか?

安田:最初はもっと複雑な形状で、リフレクターがいろんな方を向いている予定でした。今は比較的シンプルなデザインですが、こちらのほうがわかりやすかったですね。デザインをまとめる段階で、折り畳み方などの構造に悩みましたが、富野監督に「そんなのどうでもいい!」と言われてしまいました(笑)。

――リフレクターの閉じた状態は、どなたのアイデアだったのでしょうか?

安田:一応、こちらで大まかに考えていましたが、デザイン画としてしっかり描いてくれたのは吉田健一さんです。ROBOT魂でも実際に閉じるのはすごいですね。

――展開状態の再現についてはいかがでしょうか?

安田:アニメではリフレクター同士の“繋ぎ”部分が少し細すぎる気がしたので、これくらいの太さがあると安心できますね。これからはコレが公式でいいんじゃないでしょうか。

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■さらなるオプションパック

 集めれば集めるほど楽しい気分になるはず

――日開催された「魂の夏コレ2015」では、リフレクターパック以外にも多数のオプションパックを参考展示させてもらいました。

安田:観に行きました。ちょうどBlu-rayの全巻収納ボックス用のイラストを描いていたので、すぐ行かなければと。これだけ並ぶとパンチがありましたね。

――ありがとうございます! おかげさまで展示ブースは好評でした。

安田:それをお聞きして、ちょっとホッとしました。お客さんがいなかったらどうしようと思っていたので……。

ROBOT魂 G-セルフ07

――ちなみにイベントでは、その他に気になる展示はありましたか?

安田:黄金聖闘士がすごかったですよね。『聖闘士星矢』は1年ぐらい前の劇場版(『聖闘士星矢 LEGEND of SANCTUARY』)がよかったので、昔の作品から見直していました。あと、気になったのはハルクバスターですね。

――では、お話を戻して、これらのパックの中で、お気に入りはありますか?

安田:トリッキーパックが想像していた以上にイイです。設定画と違って、けっこう両肩のバインダーを下げた状態での展示でしたよね? 絵的にもカッコいいなと思って、これからこの状態を標準にしようかと思ったくらいです。

――今後、ROBOT魂で欲しい機体はありますか?

安田:『Gのレコンギスタ』ならレクテンですね。それと個人的には、『コードギアス』からですが僕バージョンのサザーランド ※注 をリリースしてほしいです。

※注:僕バージョン……ここでは、アニメ作画用にクリンナップされる以前の安田氏によるデザイン画稿を指す。

――では最後に、この記事をご覧の皆さんにおすすめの一言をお願いします。

安田:ROBOT魂のG-セルフは、とにかく手に取ってみると、情報が凝縮された感があり、見ごたえのあるアイテムとなっています。リフレクターパックは、色が非常にナイスです。G-セルフ本体もリフレクターパック用に作り直したのかなと思うぐらい、通常版と違う印象があります。なので、G-セルフをすでに持っているユーザーさんにもリフレクターパックを購入してもらいたいですね。おそらく集めれば集めるほど楽しい気分になるはずなので、ぜひ並べて飾ってみてください。

――本日はありがとうございました。

(2015年6月 新宿某所にて)

【プロフィール】

安田 朗(やすだ あきら)

 


安田 朗(やすだ あきら)
デザイナー、イラストレーター。株式会社カプコン入社後、デザイン室に所属し『ファイナルファイト』『ストリート・ファイター』シリーズなどに参加。その後フリーとなり、『∀ガンダム』(キャラクターデザイン)、『OVERMAN キングゲイナー』(メカニカルデザイン)、『コードギアス 反逆のルルーシュ』(ナイトメアデザイン)などで活躍する。


 ROBOT魂 <SIDE MS> G-セルフ
ROBOT魂
<SIDE MS> G-セルフ


メーカー希望小売価格:5,184円(税8%込)
発売日:2015年5月30日

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ROBOT魂 バンダイが長年蓄積してきた技術と、ロボットを愛する心=“ロボット魂”が創りだしたハイターゲット向けロボットフィギュア。最先端のCAD技術+造形職人の匠の技が織りなす“造形の妙”で、数々のロボットを圧倒的な完成度で立体化する。

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