フィギュアーツZERO バキシリーズ発売記念 板垣恵介インタビュー

フィギュアーツZERO 範馬刃牙

  • ▲製品版の基となる試作原型の仕上がり具合を、様々な角度から確認する板垣先生。オリバに関しては、身体中を走る血管にも細かい修正が加えられた。

範馬刃牙

—まずは主人公・範馬刃牙についてお聞かせ下さい。

担当:僕も原型師も大の『刃牙』ファンでして、思い入れが通じたのか、刃牙も最初の試作段階でほぼOKを頂いたのですが、頭部だけは少し大きく作り直しています。

板垣:最初に見た奴は、ちょっと頭身が高過ぎたんでね。刃牙の身長は168センチだから、「頭はもうちょっとデカいよね」ということで、直してもらいました。 元々、自分の身長と合わせた方が刃牙の感覚を掴みやすいと思って、168センチに設定したんですが……実は僕の身長は167で、身長を聞かれたら「170前後」って答えていて……要は軽くサバを読んでいたわけです(笑)。でも最近身長を計ったら166.2に縮んでて、これがホントに悔しくてね。小数点以下まで正確に言ってしまう辺りがスゴく卑しい(笑)。

担当:このファイティングポーズも、一発でOKを頂きました。「左肩の入り具合がいいね」と褒めて頂いて、嬉しかったのを覚えています。

板垣:うん、これはいいポーズだと思う。ボクシングでは肩でパンチを防ぐ「ショルダーブロック」というテクニックがあって、これを上手に使う選手が好きでね。それに見てくれがまずカッコいいから、実際の試合では違うのに写真撮影のときだけこのポーズを取る選手もけっこういるんだよ(笑)。

フィギュアーツZERO ビスケット・オリバ

—ラインナップ的に、オリバが入っていたのは少し意外でした。

担当:刃牙と勇次郎を外すわけには行きませんし、花山はスピンオフ作品もある超人気キャラなので、やはり外せないだろうと。ただあと一人、『刃牙』ファンなら大喜びするようなキャラを入れたいと考えていて、色々と候補を考えた結果、オリバにしました。決め手は、個人的に好きなキャラだからです(笑)。

板垣:普通は独歩や烈海王とかに行くところで、あえてオリバを選ぶという(笑)。出す側の好みがモロに出た感じだけど、こういう異形めいたものが1つ混ざっているのは面白みがありますね。このオリバはどこか禍々しいものも感じさせるし、部屋に飾ってあったらどうやっても目に付くし、思わず話題にしてしまう体型的な個性がある。

担当:監修のときに資料としてボディビルダーの写真を見せて頂いたんですが、ケツの筋肉が上向きに盛り上がっているんですよ。背中に繋がる尻の上面が、地面と平行になるくらい平らになってる。

板垣:「ヒップアップ」という言葉は、女性が使う場合は「ヒップが垂れないように形をキープする」という意味だけど…………彼らのケツは、ホントに腰のすぐ下の部分がグッと盛り上がっていて、ワイングラスくらいなら上に置けそうな感じなんだよ(笑)。だから『刃牙』のキャラクターは、ケツを描く機会があったら必ず全員グッと上げてます。ケツにまでこだわってる作家はいないと思うんで、今回の監修もそこにはこだわりました。

ビスケット・オリバ

フィギュアーツZERO 花山薫

  • ▲フィギュアーツZEROだけでなく、先日完結したばかりの『範馬刃牙』についても熱く語る板垣先生。このインタビューの模様は、『別冊少年チャンピオン10月号』(9月12日発売)や『フィギュア王 No.176』(9月24日発売)にも掲載されるぞ!

花山薫

—花山を作る上で留意した点は?

担当:最初に試作を作るときに気を付けたのは、「手」ですね。握力で敵の手足を破裂させる「握撃」は花山の代名詞ですが、その力強さが伝わるよう心掛けました。先生に最初に見て頂いたとき、「力を感じさせる良い手だね」と言って頂いたのを覚えています。

板垣:元々『刃牙』のキャラクターは手を大きめに描いていますが、特に花山の手は意図的に、顔が十分隠れるくらい大きくしています。手から感じ取れる情報は、強さを表現する上でかなり重要だと思う。 2年前、引退直前の朝青龍と握手する機会があったんだけど……僕はこの仕事のおかげで各分野の一流選手や格闘家の方々と握手してきたけど、「手の厚み」という点ではあれは別格。俺の5倍は厚かった(笑)。いや、実際には2.5倍とか3倍くらいかも知れないけど、もう握ったときの感触は「5倍」と言わないと伝わらないくらいの厚さ。そのまま「クシャッ!」と握り潰されそう(笑)。そういう経験からも、手の拘りを楽しんでしまう。

担当:修正の参考用に手の写真を頂きましたが、あれは?

板垣:パワーリフターの手だね。パワーリフティングという、3種目(ベンチプレス、スクワット、デッドリフト)競技をやってる人たち。彼らは超高重量を使った練習をやってるから、とにかく握力が強く指が太いんですよ。

フィギュアーツZERO 範馬勇次郎

—範馬勇次郎の修正に関しては

担当:顔の表情と背中の「鬼の貌」に関しては、先生に「目をこれくらいの角度に吊り上げる」という修正ラインを描いて頂いて、その通りに修正しました。先生の指示通りに修正したことで、勇次郎の悪魔的なキャラクターがより極まったと思います。

板垣:(修正された試作を見ながら)あ、いいですねえ! 「鬼の貌」も修正前はちょっと優し過ぎたんだけど、ちゃんと怒ってる(笑)。 「鬼の貌」の設定を思い付く前は、勇次郎の背中には「ドラゴンの刺青」を入れようと考えていた。龍の四肢が本人の四肢に溶け込んでいて「彼が動くと、まるで龍が暴れているように見える」とかだと、カッコいいなと思って。ところが「それで行こう!」と決めた頃にたまたまボディビルの写真を見たら、その背中が平家ガニみたいな顔に見えた。それで「これをもっとデフォルメして、凶悪な表情に見えるようにしよう」と考えたんです。

担当:それ以外では、手の表情も先生の意向で修正を加えてい ます。親指を外側に開いて、より力の入った感じに修正しました。あとは「皮下脂肪が薄くて筋繊維が透けているかのようにしたい」ということで、全体に脂肪が少なく見えるよう修正しています。

板垣:こんなに脂肪が少なかったら、普通は体調悪くなるんだろうけど……まあ、勇次郎だからね(笑)。

範馬勇次郎

—それでは最後に、『刃牙』ファンへ向けてのメッセージをお願いします。

板垣:先日『範馬刃牙』の最終回を書き終えて......今の気分としては、安堵感がイチバン大きいですね。刃牙と勇次郎という2人のキャラクターを信用して描き続けたけど、「もしも、自分が納得の行くラストに辿り着けなかったら......?」という恐怖は常にあった。でも最終話のネーム(ストーリー)を切り終えた時に、「これなら納得できる。誰に批判されても構わない。一体この結末のどこが悪いんだ!」と開きなおれた。だから、21年間続けた連載が終わった虚無感よりも、今は開放感や安堵感の方が遥かに大きいです。
これで一旦『刃牙』からはしばらく離れますが、またいつか再開させるでしょう。ただ同じシリーズを3部作でやってきたわけですし、「どうせ次のシリーズに変わるだけでしょ?」という風に考える人もいるだろうから、そこはハッキリと裏切りたい。
なのに、次の『刃牙』のことはもう考え始めてしまっている。僕自身も楽しみで......考え始めると今描いてるものが手に付かなくなるんで、できるだけ考えないようにしてるんだけど、やっぱりつい思ってしまう(笑)。実際に描くのは遠〜い先になりそうなんですがね。

構成・文/徳重耕一郎(TARKUS) 撮影/加藤文哉

板垣恵介(いたがき けいすけ)

プロフィール
1957年4月4日・北海道生まれ。高校を卒業後地元で就職するが、後に退職し19歳で陸上自衛隊に入隊。習志野第1空挺団に約5年間所属し、アマチュアボクシングで国体にも出場する。その後病による入院を期に自衛隊を除隊し、様々な職を経験しながら漫画家を志す。30歳のとき、漫画原作者・小池一夫の主催する劇画村塾に入塾し、『メイキャッパー』でデビューを果たす。1991年に連載スタートした『グラップラー刃牙』は、『バキ』『範馬刃牙』とシリーズを重ねることで、格闘漫画の新たな地平を切り拓いた名作となった。他の代表作として、『餓狼伝』(原作:夢枕獏)、『バキ外伝 疵面』(作画:山内雪奈生)、『謝男(シャーマン)』などがある。